九一式戦闘機 概要

(1)あらまし
 九一式戦闘機のルーツは、大正15年11月に陸軍航空本部帖から陸軍大臣に提出された「単座戦闘機試作」申請から始まります。甲式四型(ニューポール29)に代わる戦闘機としての試作申請でしたが、それが昭和2年2月に認められたことにより、中島、三菱、川崎、石川島の4社による設計審査となって、昭和2年11月に上位3社(一等:中島、二等:三菱、川崎)に試作指示がなされました。
 この段階では、次のような機体でした。
 ・中島  空冷(ジュピターY型、425馬力)/高翼式単葉
 ・三菱  水冷(イスパノスイザX型、565馬力)/低翼単葉機、-8.3°の後退角(=8.3°の前進角)を持つ
 ・川崎  水冷(イスパノスイザX型、565馬力)/一葉半機
 ・石川島 空冷(ジュピターY型、425馬力)/一葉半機
 但し、木型審査時点で「視界重視のため、パラソル型が好ましい」という要望を受けて、三菱機と川崎機は設計変更を余儀なくされ、それぞれ高翼単葉になっています。

 3社の試作機は、昭和3年5月頃に出揃います。
即ち、中島のマリー、ロバン両技師(ニューポール社から招聘)指導によるNC機(2機製作)、三菱のバウマン技師指導の隼型機(1MF2、2機製作)、川崎のフォークト技師指導のKDA-3(3機製作)です。
 これらは所沢で飛行試験が行われましたが、三菱の隼型機が急降下中に機体分解した(昭和3年6月)ことで審査を中止、全機が強度試験((急降下、ピッケ、動力停止垂直降下の3種の過重試験、陸軍航空本部技術部の安藤成雄技師の考案)を受けた結果、中島機がぎりぎり合格、他社機は不合格となって試作計画は頓挫します。

 ただ、中島知久平の押しの強さがあるのでしょうか、ジュピターZ型エンジンを国産化したこともあってか、中島NC機は増加試作機による改修の継続が陸軍から指示されるのですが、昭和4年8月、明野にての実用試験中の1号機(操縦者 原田潔大尉)が急降下からの引き起こし時に主翼が吹っ飛び、またまた頓挫。

 中島ではイギリスからブルドッグ戦闘機を輸入という対処案も用意したようですが、知久平が「要求通りのものができなければ、製作所を閉める。」と公言。多くの設計改造(*)を経て、折からの満洲事変(昭和6年9月)も後押しした形となって、急遽制式化(昭和6年12月 陸普第五五二六号)されました。

* 『航空朝日 昭和16年7月号』によれば、翼型が「M6」に変更、それに伴う主翼取り付け角や尾部周りの変更・改修など、かなりの難問であったことが、当時のテストパイロットによる座談会記事から窺えます。


(2)機種サブタイプ
 機種としては、一型と二型が知られています。

 更に、一型の中でも前期型と後期型とに別れており、前期型でも、途中で
  • 垂直安定版の増積(昭和8年2月の陸満密第99号「航空器材交付の件」に、「九一式戦闘機用垂直安定版(新式)×2」という記載があります)
  • ピトー管が「上へ」から「下へ」変更(分っている範囲では、137号機以降が「下へ」のタイプです)

  •   
     <上へタイプ>       <下へタイプ>

     但し、130号機の写真で「下へ」タイプがありますので、後で改修(交換)されているように思え、106号機に「下へ」タイプが付いている写真もあります。(『航空界の今昔』)
     ピトー管はできるだけプロペラ後流の影響を受けにくい位置が望ましいため、操縦者から見て左回転(反時計廻り)の一型では上に逃げている方が望ましいようにも思えるのですが、実際にはそうでなかったようです。

     後半には、翼支柱間に斜め支えが1本追加され張線がなくなった一型後期タイプへ生産が切り替わっています。これまたはっきりとはしませんが、胴体後方上部に編隊灯が追加されています。

    1型初期型
    一型初期型

    1型後期型
    一型後期型


     昭和9年夏〜秋に、20機程度が一型から二型に改造しており、その改造点は陸軍資料から次です。
  • 発動機を、ジュ式(450馬力)から九四式発動機(450馬力)に変更(発動機の回転方向が逆に)
  • プロペラを、一型の木製から金属製に変更
  • 上記の他に、次の変更点も写真などから分ります。
  • 主翼支えを、一型(後期生産型)と同様な「張線なし」タイプに変更
  • プロペラの回転方向が変わったことから、ピトー管が左翼から右翼に変更(変更されていない機体もありますが)


  •  2型タイプ
     二型への改造で、重量が次のようになりました。性能的には中高度域での最大速度が幾分向上したようですが、上昇率はほとんど向上していません。操縦性能も大差なしとされています。
     発動機の回転方向が逆になって、左水平錐揉みに陥り易いため、左横転及び左錐揉みの実施には十分注意が必要だとされています。

    項目性能向上機機 現用機 
    発動機重量360 kg 415 kg 
    プロペラ重量61.4 kg 42.4 kg 
    機体重量1534 kg 1553 kg 

     高度 性能向上機機 現用機 
       0m  274 km/h  290 km/h 
     1000m  289 km/h  301 km/h 
     2000m  303 km/h  304 km/h 
     3000m  315 km/h  305 km/h 
     3600m  322 km/h  305 km/h 
     4000m  320 km/h  305 km/h 
     5000m  312 km/h  303 km/h 
     6000m  303 km/h  296 km/h 
     7000m  292 km/h  265 km/h 


    (3)機体緒元
     手許にある、『飛行機工述教程(九一式戦闘機(一型))』(陸軍航空技術学校、昭和11年10月)によれば、機体緒元は以下です。(斜体字は、試作機の計画段階での緒元です)

    三面図 計器板 操縦席(特集「少年飛行機画報」から)
    主要緒元全幅11.000 m12.00 m
    全長 7.269 m 7.250 m
    全高 2.675 m 2.950 m
    轍間距離2.060 m2.392 m
    主翼面積(補助翼共)20.360 m224.000 m2
    翼弦 2.000 m 2.000 m
    主翼「アスペクトレシオ」約 66
    翼断面NACA M.6STAe 106.A
    主翼取付角度(牽進線に対し)1度40分3度
    補助翼面積2.2295 m22.080 m2
    安定板面積1.076 m22.200 m2
    昇降舵面積1.420 m21.250 m2
    垂直板面積0.583 m20.670 m2
    方向舵面積0.99 m20.74 m2
    自重、搭載重量 自重1,100 kg881 kg
    搭載量 455 kg 545 kg
    全備重量1,555 kg1,428 kg
    搭載量内訳燃料
    (揮発油 70%、ベンゾール 30%) 
    280 l (約 214 kg)360 l
    滑油約 22 l約 45 l
    乗員(1名) 70 kg
    武装その他150 kg
    使用発動機名称「ジュ」式 450馬力発動機(一型)ジュピターY型
    形式星型固定9気筒空気冷式興圧機付
    正規馬力480 馬力(高度2,750mに於いて)425 馬力(高圧縮
    正規回転数1775 回/分(高度2,750mに於いて) 
    燃料消費量240ないし250 g(毎時毎馬力)
    重量410 kg
    プロペラ 被包式乙型木製
    中径約 2.768 m約 2.760 m
    「ピッチ」約 2.520 m
    最大翼幅約 0.280 m
    重量約 26kg
    (42.4 kg、「ボス」金具とも)
        
    射撃装置八九式固定機関銃甲 1
    乙 1
    「ビ」式E型機関銃を流用し得
    八九式発射連動機1 組 
    固定機関銃用照準具1「オイゲー」照準眼鏡を流用し得
    固定式射撃監査写真機1 
    実包(保弾子100)1000 
    計測器装置速度計1受風筒導管共(500km型)
    高度計1(九一型)
    旋回指示機器1 
    羅針盤1(一号)
    縦斜計1(縦型)
    飛行時計1 
    回転計1「フレキシブル」共(一四型)
    燃料油圧系1導管共
    油量計2(浮子磁石式)
    滑油温度計1導管共
    吸入圧力計1(一万型)
    電気装置三号機上電気器具1発電機 1
    蓄電池 1
    電圧調整器 1
    配電盤1 
    標識燈及警燈1組 
    計器燈左右 各1 
    計燈加減抵抗器左右 各1 
    信号燈1 
    旋回指示器1 
    反射鏡1 
    酸素吸入器1組二型またはMA型 
    防火具1組一号
    落下傘1一号
    着陸照明火保持器具2九一式戦闘機用